名前を知っておくと将棋が面白くなる棋士
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将棋を見始めると、解説で当たり前のように棋士の名前が出てきます。「羽生さんの時代なら」「これは大山先生がよく指した形で」。名前を知らないと、何が面白いのか分からないまま流れていきます。
逆に言えば、10人ほど名前を覚えるだけで、中継の面白さが何倍にもなります。
この記事では、初心者が知っておくと得をする棋士を紹介します。強さの順位づけではありません。「名前を知っていると将棋の見え方が変わる人」という基準で選んでいます。
まず1人だけ覚えるなら:藤井聡太
2002年7月19日生まれ、愛知県瀬戸市出身。
14歳2か月でプロ(四段)になりました。 これは当時の最年少記録です。それまでの記録は加藤一二三さんの14歳7か月で、62年ぶりの更新でした。
そしてデビューから29連勝。 プロになって最初の対局から、負けずに29回勝ち続けました。それまでの記録は1987年の28連勝で、こちらも30年ぶりの更新です。中学生が公式戦で勝ち続ける様子は連日ニュースになり、将棋を知らない人まで結果を追いかけました。
2023年10月11日、21歳2か月で八大タイトルすべてを同時に保持しました。 将棋の歴史上、八冠を同時に持った人は他にいません。
この人を知っていると何が面白いか
終盤です。
藤井さんの将棋は、終盤の正確さで有名です。解説の棋士が「ここは難しい」と言っている場面で、藤井さんだけが正解の手を指していることがよくあります。中継では、AIの評価値グラフが藤井さんの一手で急に動く瞬間があります。あの瞬間を見るために中継を見ている人がいるくらいです。
注目すべきは「持ち時間が少なくなってからの正確さ」です。普通は時間がなくなると間違いが増えます。藤井さんはそこが崩れません。中継で残り時間が1分を切ってからの指し手を見ていると、何が異常なのかが分かります。
現在のトップ争い
(2026年9月26日時点)タイトルの保持者と序列は入れ替わります。ここは日本将棋連盟の棋士データベースで確認した日を書いています。
伊藤匠(いとう・たくみ)
藤井聡太と同学年です。長らく「藤井世代なのに藤井に勝てない存在」として語られてきましたが、藤井からタイトルを奪い、そのまま防衛を重ねています。
この人を知っていると何が面白いか
藤井聡太との対戦です。
同学年で、奨励会時代から何度も当たってきた相手です。この2人の対局は、単なるタイトル戦以上の見られ方をします。「藤井の八冠を崩した人」というのは、将棋史に残る位置づけです。
伊藤さんの将棋は、藤井さんとはタイプが違います。受けて、我慢して、相手の攻めが切れたところで勝ちに行く形が多い。派手さはありませんが、藤井さんの攻めを受け止めきる棋士は他にほとんどいません。
渡辺明(わたなべ・あきら)
藤井聡太が出てくる前の、第一人者のひとりです。
竜王戦で9連覇しました。竜王は将棋で最も賞金が高いタイトルで、それを9年続けて守ったことになります。初代永世竜王の資格を持っています。
この人を知っていると何が面白いか
序盤の研究です。
渡辺さんは、対局前の準備で相手を上回るスタイルで知られています。「対局が始まった時点で、もう研究範囲」という将棋を指します。中継で解説者が「これは渡辺さんの研究でしょうね」と言うとき、その先の何十手かはすでに家で考えられている、という意味です。
記録を作った人たち
羽生善治(はぶ・よしはる)
藤井聡太の前の「将棋界の顔」です。40代以上の方なら、将棋を知らなくても名前は聞いたことがあるはずです。
1996年に、当時あった7つのタイトルをすべて同時に保持しました。 俗に言う「七冠独占」です。当時は社会現象になりました。
タイトル獲得は通算99期。 歴代1位です。そして99という数字で止まっていることが、将棋ファンのあいだでは長く話題になっています。100期に、あと1つ届いていません。
永世七冠の資格保持者でもあります。同じタイトルを規定の回数取ると「永世」の称号がもらえるのですが、羽生さんは7種類すべてでその資格を満たしました。他に達成した人はいません。
この人を知っていると何が面白いか
「羽生マジック」という言葉です。
解説で今も使われます。負けているはずの局面から、誰も見えていなかった手を指して逆転する。あまりに頻繁だったので、専用の呼び名がついてしまいました。
そしてもうひとつ。羽生さんは、藤井聡太が中学生のときに公式戦で敗れています。 世代交代の瞬間として、今も語られます。
羽生さんは2023年から日本将棋連盟の会長を務めていましたが、2025年に退任し、棋士に専念しています。
大山康晴(おおやま・やすはる)
タイトル獲得80期。 羽生さんに次ぐ歴代2位です。
すごいのは記録の中身です。名人を13期連続で保持しました。さらに、69歳で亡くなる直前までA級(トップ10)に在籍していました。将棋は年齢とともに衰えるのが普通とされる世界で、70歳近くまでトップ10にいた人は他にいません。
この人を知っていると何が面白いか
「受け」という考え方です。
大山さんは、相手の攻めを受けきって勝つ棋士でした。攻めて勝つほうが分かりやすくて人気がありますが、受けて勝つほうが難しい。解説で「大山先生ならここで受けますね」と言われるとき、それは「一見損に見えるが、実は最も勝ちに近い手」という意味です。
中原誠(なかはら・まこと)
大山時代の次の時代を作った人です。タイトル獲得64期。 十六世名人。
「自然流」と呼ばれました。奇をてらわず、当たり前に見える手を積み重ねて勝つ。当たり前の手を積み重ねるのは、実は最も難しいことです。
谷川浩司(たにがわ・こうじ)
21歳2か月で名人になりました。 1983年のことです。この最年少記録は40年間破られませんでした。破ったのは藤井聡太で、2023年に20歳10か月で名人になっています。十七世名人。
「光速の寄せ」という異名があります。終盤の速さで有名でした。藤井聡太の終盤が話題になるとき、比較対象としてよく名前が出ます。
加藤一二三(かとう・ひふみ)
14歳でプロになり、77歳まで現役を続けました。 プロ棋士としての在籍期間は将棋史上最長です。
若い頃は「神武以来の天才」と呼ばれました。神武天皇以来、つまり日本の歴史が始まって以来、という意味です。
この人を知っていると何が面白いか
加藤さんは、大山・中原・谷川・羽生のすべてと公式戦を戦っています。 ひとりで将棋史を縦断しているような棋士です。
引退後はテレビ番組でも知られるようになりました。「ひふみん」の愛称で知っている方も多いと思います。ただ、バラエティでの姿だけを見て「面白いおじいさん」と思っていると、記録を見たときに驚くことになります。
女流棋界
将棋には、棋士と女流棋士という別々の制度があります。ここは初心者が混乱しやすいところなので、先に説明します。
- 棋士 — 奨励会という養成機関を勝ち抜いて四段になった人。男女の区別はありません。ただし、2026年現在まで女性の棋士は誕生していません。
- 女流棋士 — 女性のみが参加する制度。独自のタイトル戦があります。
つまり、女流棋士は「女性版の棋士」ではなく、別の制度です。女流棋士が棋士になるには、編入試験などの道を通る必要があります。
福間香奈(ふくま・かな)
旧姓・里見。女流タイトルを数多く獲得している第一人者です。
奨励会で三段まで進みました。 三段リーグを抜ければ棋士になれる、その一歩手前です。体調の問題で退会しましたが、女性がそこまで到達したこと自体が当時としては画期的でした。
西山朋佳(にしやま・ともか)
福間香奈と並ぶ、女流のもうひとりの中心です。
奨励会三段リーグで「次点」(14勝4敗)を記録しました。 これは女性として初めてです。昇段には届きませんでしたが、あと一歩のところまで行きました。
そして2024年から2025年にかけて、棋士編入試験を受験しました。結果は2勝3敗で不合格。ただし、女性として初めて編入試験で白星を挙げたのは西山さんです。
女流棋戦では、永世称号の資格を女流棋士として初めて獲得しています。
この2人を知っていると何が面白いか
「女性初の棋士」が、いつ誕生するかという話です。
将棋界で長く語られてきたテーマです。福間さんと西山さんは、その最前線にいます。2026年には、この2人を念頭に編入試験の制度を見直す案も報じられました。
初心者の方には、ここを押さえておくことをおすすめします。将棋界で今いちばん動いている話題だからです。
清水市代(しみず・いちよ)
女流棋士として長くトップにいた人ですが、いま名前を覚えておくべき理由は別にあります。
2025年6月、日本将棋連盟の会長に就任しました。女性として初めてです。
日本将棋連盟の会長は、歴代すべて棋士(男性)が務めてきました。女流棋士が、しかも女性が就任したのは初めてのことです。
【2026年9月26日時点】いまのタイトル勢力図
タイトル戦は年間を通じて行われるため、保持者は入れ替わります。下の表は2026年9月26日時点のものです。最新の状況は日本将棋連盟の公式サイトでご確認ください。
八大タイトル(棋士)
| タイトル | 保持者 |
|---|---|
| 竜王 | 藤井聡太 |
| 名人 | 藤井聡太 |
| 王位 | 藤井聡太 |
| 叡王 | 伊藤匠 |
| 王座 | 伊藤匠 |
| 棋王 | 藤井聡太 |
| 王将 | 藤井聡太 |
| 棋聖 | 藤井聡太 |
第74期王座戦五番勝負(伊藤匠王座 対 広瀬章人九段)は、このページの確認時点で進行中です。
女流八大タイトル
2026年時点では、福間香奈と西山朋佳の2人がほぼすべてを分け合う状況が続いています。(2026年6月時点で、白玲・女流名人・女流王将を西山、女王・女流王座・女流王位・倉敷藤花・清麗を福間が保持)
どこで対局を見られるか
名前を覚えたら、次は実際に見てみてください。
- ABEMA — 将棋チャンネルで、タイトル戦や棋戦を無料で中継しています。AIの評価値が画面に出るので、どちらが優勢かが初心者にも分かります。最初に見るならここです。
- NHK杯 — 日曜の朝にEテレで放送しています。1局が放送時間内に終わるので、通して見られます。解説も丁寧です。
- 日本将棋連盟の公式サイト — 対局結果と棋譜が見られます。
いきなり全部を理解しようとしなくて構いません。評価値のグラフが動いた瞬間に「何が起きたんだろう」と思えれば、それで十分です。その「何が起きたんだろう」を解説が説明してくれます。
まとめ
- まず藤井聡太。 14歳2か月でプロ、デビュー29連勝、21歳で史上初の八冠。見どころは終盤の正確さ。
- 伊藤匠 は藤井と同学年で、藤井からタイトルを奪った棋士。この2人の対局は特別です。
- 羽生善治 はタイトル通算99期、七冠独占、永世七冠。「羽生マジック」は今も解説で使われる言葉です。
- 大山康晴(80期)・中原誠(64期)・谷川浩司・加藤一二三 は、解説で名前が出たときに「そういう人か」と分かれば十分です。谷川さんの最年少名人記録を40年後に破ったのが藤井聡太、という関係も覚えておくと話がつながります。
- 将棋には棋士と女流棋士という別の制度があり、女性の棋士はまだ誕生していません。 福間香奈・西山朋佳がその最前線にいます。
- 清水市代 が2025年、女性初の日本将棋連盟会長に就任しました。
- 見るなら ABEMA か NHK杯 から。
参考
- 藤井聡太 - Wikipedia
- 中学生棋士・藤井聡太四段。デビューから負けなし29連勝の大記録はどのように達成されたか|日本将棋連盟
- 将棋8タイトル戦 年間日程・結果まとめ(2026年度版)|ABEMA TIMES
- 将棋 叡王戦 伊藤匠二冠 タイトル防衛で3連覇|NHKニュース
- 羽生善治九段が作った伝説級の記録たち 七冠独占・永世七冠・タイトル通算99期|ABEMA TIMES
- 西山朋佳 - Wikipedia
- 福間香奈 - Wikipedia
- 【2026年最新版】女流棋士8大タイトル戦まとめ
- 将棋連盟会長に清水市代・女流七段 羽生善治九段の後任|日本経済新聞
- 福間・西山の女流2強を念頭に新制度案 将棋・編入試験3回で棋士へ|日本経済新聞
- 棋士データベース|日本将棋連盟
- 上記は2026年9月26日に確認しています(八大タイトルの保持者は日本将棋連盟の棋士データベースで再確認)