初手30通りを全部試してみた
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対局が始まって、盤の前で最初の1手を考える。20枚の駒が並んでいて、どれを動かしてもよさそうに見える。
実は、初期局面から先手が指せる手はちょうど30通りです。無限にあるように見えて、意外と少ない。そして実戦で指されるのは、そのうち2〜3通りに集中しています。
残りの27通りは、なぜ指されないのか。全部見ていきます。
初期局面から先手が指せる30通りの手を、1つずつ表示します
動かした駒元いたマス
動かせない駒が2種類ある
まず、初期局面では角と桂馬がまったく動けません。
角は8八にいて、斜め4方向がすべて塞がっています。前方の7七と9七には自分の歩、後方の7九と9九には銀と香。だから角の初手は0通りです。
桂馬も同じです。2九の桂が跳べるのは3七と1七ですが、どちらも自分の歩がいます。8九の桂も7七と9七が歩。だから桂馬の初手も0通りです。
動かせるのは玉・飛車・金・銀・香車・歩の6種類、駒数にして17枚だけです。
30通りの内訳
| 駒 | 通り数 | 具体的な手 |
|---|---|---|
| 歩 | 9 | ▲1六歩 ▲2六歩 ▲3六歩 ▲4六歩 ▲5六歩 ▲6六歩 ▲7六歩 ▲8六歩 ▲9六歩 |
| 香車 | 2 | ▲1八香 ▲9八香 |
| 銀将 | 4 | ▲3八銀 ▲4八銀 ▲6八銀 ▲7八銀 |
| 金将 | 6 | ▲3八金 ▲4八金 ▲5八金右 ▲5八金左 ▲6八金 ▲7八金 |
| 飛車 | 6 | ▲1八飛 ▲3八飛 ▲4八飛 ▲5八飛 ▲6八飛 ▲7八飛 |
| 玉将 | 3 | ▲4八玉 ▲5八玉 ▲6八玉 |
| 角・桂 | 0 | 動けない |
合計30通り。ちなみに後手の2手目も同じく30通りなので、最初の2手だけで900通りの分岐があることになります。
金が6通りあるのは、5八の地点に左右どちらの金も動けるからです。だから「▲5八金右」「▲5八金左」と区別します。の右左表記が必要になる、最も早い場面です。
実際に指される3通り
30通りのうち、プロの対局で指されるのはほぼ次の3つです。
▲7六歩 — 最も多い初手
角の道が開きます。この手の価値は、その後の選択肢を一切狭めないことにあります。
角道を開けたあと、にもにも進めます。相手の出方を見てから作戦を決められる。だから最初に指される手として最も合理的です。
当サイトの定跡ガイドにある戦法の大半が、この手から始まります。
▲2六歩 — 居飛車を宣言する
飛車の前が開きます。飛車をそのまま前線で使う意思表示です。
自由度は▲7六歩より下がりますが、そのぶん主導権を握りやすくなります。相掛かりや横歩取りといった激しい将棋は、この初手から生まれます。
▲5六歩 — 中飛車を目指す
中央の歩を突いて、飛車を5筋に振る構想です。狙いがはっきりしているので、初心者にも指しやすい戦法につながります。
残り27通りはなぜ指されないのか
一つずつ性格を見ていきます。
歩を突く手(残り6通り)
▲1六歩・▲9六歩(端歩) — 悪手ではありません。ただし戦いに直接関係しない場所なので、の貴重な1手を使う価値が薄い。以降に「手がない」ときに指す手です。
▲3六歩・▲4六歩・▲6六歩 — それぞれ狙いは考えられますが、角道が開かないか、開いても自分の駒に当たる形になります。▲3六歩は、後手の角道を止める意図で指される例が実際にあります。
▲8六歩 — この中では最も損な手です。8八の角の真上を自分から空けてしまい、角の頭という最大の弱点を序盤からさらすことになります。
▲8六歩を指した局面。赤い枠が角の頭(8七)です
8七には先手のどの駒も利いていません。角は斜めにしか動けないので、自分の頭を守れません。
香車を上げる手(2通り)
▲1八香・▲9八香 — 香車が1マス上がっただけで、何も生みません。ただしというでは端の香を上げる手順があるため、まったく指されないわけではありません。ただ初手で指す理由はありません。
銀を上げる手(4通り)
▲7八銀・▲6八銀 — 実はこれらは悪くありません。を目指す場合、▲6八銀は正しい手順の一部です。ただし角道を開ける前に指す必要がないので、初手としては順番が違うという扱いになります。
▲3八銀・▲4八銀 — 右銀を上げる手。棒銀などで使う形ですが、これも初手で急ぐ理由がありません。
金を動かす手(6通り)
▲7八金・▲6八金 — 矢倉の囲いで使う手です。方向としては間違っていません。
▲3八金・▲4八金・▲5八金 — 玉から金が離れていく形になりがちで、囲いとしての形が作りにくくなります。
金は守りの要なので、どこに置くかは玉をどちらに囲うかが決まってから考えるべきです。初手で金を動かすのは、行き先を決める前に荷物を運び出すようなものです。
飛車を動かす手(6通り)
▲6八飛・▲7八飛 — 振り飛車の形です。ただし通常は▲7六歩を挟んでから振ります。角道を開けずに飛車だけ振ると、角が働かないまま戦いが始まります。
▲5八飛 — 中飛車の形ですが、これも▲5六歩が先です。
▲1八飛・▲3八飛・▲4八飛 — 飛車が1〜2マス寄っただけで、何も改善しません。
玉を動かす手(3通り)
▲6八玉・▲5八玉・▲4八玉 — 玉を動かすこと自体は正しい方向です。「は避けよ」という格言があるとおり、玉は最初の位置から動かすべきだからです。
ただし、どちらに囲うかを決める前に玉を動かすと、方向を間違えることがあります。振り飛車なら玉は右へ、居飛車なら左へ。それが決まる前に動かす必要はありません。
この検証からわかること
27通りを見ていくと、指されない理由が3つに分類できます。
- 何も生まない手 — 香車を上げる、飛車を1マス寄せる。局面が改善しない
- 順番が違う手 — 銀や金を上げる手。方向は正しいが、先に指すべき手がある
- 自分から弱点を作る手 — ▲8六歩。角頭を自らさらす
そして最も多いのが2番目です。悪い手だから指さないのではなく、指す順番が来ていないから指さない。 序盤とはそういう作業だ、ということが30通りを並べてみるとよくわかります。
まとめ
- 初期局面で指せる手は30通り。角と桂馬は1手も動けない
- 内訳は歩9・香2・銀4・金6・飛6・玉3
- 実戦で指されるのはほぼ▲7六歩・▲2六歩・▲5六歩の3つ
- ▲7六歩が最多なのは、その後の選択肢を狭めないから
- 指されない手の多くは「悪い手」ではなく「順番が来ていない手」
- 最も損なのは▲8六歩。角の頭という弱点を自分からさらす